遺言書は、大切な財産を誰にどのように引き継ぐかを明確にし、相続トラブルを防ぐための重要な書類です。しかし、形式不備や表現のあいまいさによっては無効となるおそれもあります。本記事では、遺言書で決められる主な事項や種類ごとの特徴、作成時の注意点についてわかりやすく解説します。
遺言書で決定できるおもな事項
遺言書は、相続に関する故人の意思を明確に示すための大切な書類であり、そこではさまざまな事項を決定できます。まず、遺産の分割方法や相続人がそれぞれいくら相続するかを指定することができます。また、相続人同士のトラブルを防ぐために、遺産分割を最長5年間禁止することも可能です。さらに、相続人以外の第三者に財産を渡す「遺贈」や、遺言の内容を実行する遺言執行者の指定、財産を団体などへ寄付することも遺言書で定められます。
ほかにも、生命保険金の受取人変更、特別受益の持ち戻しを免除する旨、相続人の廃除やその取り消しなど、相続関係に大きな影響を与える事項を決定できます。身分関係では、子どもの認知や未成年の子どもの後見人を指定することも認められています。
このほか、付言事項として、遺産分割の意図や葬儀方法、感謝の気持ちなどを書き添えることも可能です。特に相続人以外に遺産を渡す場合は、理由を記しておくとトラブル防止に役立ちます。
遺言書の種類とそれぞれの特徴
遺言書は、大切な財産を誰にどのように引き継ぐかを明確にするための重要な書類です。その中でも、一般的に利用される「普通方式遺言」には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。なお、病気や災害時など限られた状況でのみ作成できる「特別方式遺言」もありますが、利用できる場面が限られることから、ここでは普通方式遺言の3つについてくわしく解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人が遺言内容をすべて自筆で書いて作成する遺言書のことです。・自筆証書遺言のメリット自筆証書遺言は、紙とペン、印鑑があればすぐに作成でき、もっとも一般的に利用されている形式です。筆記具や紙、書式に決まりはなく、思い立ったときに作れる手軽さが最大の特徴です。
費用をかけずに簡単に作成でき、法務局の「遺言書保管制度」を利用すれば、紛失や隠匿を防ぎつつ安全に保管できます。同制度を利用した場合、後の検認(家庭裁判所での手続き)が不要になる点も大きなメリットです。保管手数料は3,900円と比較的安く利用しやすい制度です。
・自筆証書遺言のデメリット自筆証書遺言は、形式不備により無効になりやすいリスクがあります。遺言書本文は本人がすべて自書する必要があり、遺言書本文をパソコンで作成したり印鑑を押し忘れたり、日付が曖昧(例:「○月吉日」)であったりすると法律上無効になります。
財産目録を添付する場合のみ、パソコンで作成したものを使っても構いません。たとえば、所有財産が多い場合に「別紙財産目録1に記載の財産をAに相続させる」と本文に書き、財産一覧をパソコンで作成して添付できます。
また、第三者のチェックが入らないため、判断能力が不十分な状態で作成されてしまい、後々相続人同士の争いにつながるケースも少なくありません。法務局に保管しない場合は検認が必要となり、相続人に手続きの負担がかかります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思をていねいに確認しながら作成するため、もっとも確実性の高い遺言方法として知られています。・公正証書遺言のメリット公正証書遺言の原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、家庭裁判所での検認手続きも必要ありません。
さらに、遺言者が自ら文字を書くことが難しい場合でも、公証人が内容を読み上げて意思を確認しながら進められるため、高齢の方や病気の方でも利用しやすい形式です。自宅や病院へ公証人が出向いて作成することもでき、身体が不自由な方にとって大きなメリットとなっています。
・公正証書遺言のデメリット公正証書遺言を作成した場合、費用がかかる点がデメリットといえます。
費用は扱う財産額によって決まるため、まちまちですが、たとえば、100万円以下の預金のみを相続させる場合であればおよそ5,000円程度、100万円以上200万円以下であれば7,000円ほどが手数料の目安となります。これらの金額は目的価額や文書枚数などで変わるため、詳細は最寄りの公証役場で確認してください。
また、必要書類をそろえたり、証人2名の立ち会いを確保したりと、準備に一定の手間がかかる点も避けられません。証人については、未成年者や推定相続人、受遺者、その配偶者や直系血族などは証人になれず、該当者が見つからない場合は公証役場が紹介してくれることもあります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくない人が選ぶ方式で、遺言書の存在だけを公証役場で認証してもらう仕組みになっています。・秘密証書遺言のメリット遺言書の本文はパソコンで作成しても問題なく、最終的な署名と押印だけを遺言者本人が行えばよいという特徴があります。封印した遺言書を公証役場に持参し、公証人にその存在を認証してもらうことで成立します。
・秘密証書遺言のデメリットこの方式は形式に不備があると無効となるおそれが大きく、公証役場が遺言書の内容を確認するわけではないため、紛失や隠匿のリスクもつきまといます。自宅などで保管することになるため、発見されないままになってしまう可能性もあります。
また、家庭裁判所での検認が必要で、証人2名の立ち会いも求められることから、手続きに手間がかかり、費用も一定程度必要になります。このような背景から、実務では自筆証書遺言や公正証書遺言ほど利用されておらず、選ばれるケースは少ないのが現状です。
無効になる?遺言書作成時の注意点
遺言書は相続において大きな効力をもつ重要な書類ですが、内容や形式に不備があると無効になるおそれがあります。せっかく遺した思いが反映されない事態を避けるためにも、遺言書作成時の注意点を理解しておきましょう。これらのポイントを押さえておくことで、遺言書の効力を確実にし、相続トラブルの防止につながります。
共同の遺言は法的効力をもたない
まず、共同の遺言は一切認められていません。民法第975条で明確に禁止されており、夫婦で1枚の用紙にまとめて記載した遺言書は無効となります。たとえ確認しやすいように共同で作成したとしても法的効力は生じません。ビデオレターや音声による遺言は無効
また、ビデオレターや音声による遺言も無効です。とくに自筆証書遺言の場合、全文を自書しなければならず、映像や録音は法的な遺言として扱われません。ただし、家族に思いを伝える補足資料として残すことで、相続トラブルを防ぐ一助になる可能性はあります。
あいまいな表現はNG
文章表現にも注意が必要です。つい書きたくなってしまいますが「渡す」「任せる」「託す」などのあいまいな表現は解釈が分かれ、相続争いを招きやすくなります。明確に「相続させる」「取得させる」「遺贈する」といった法的に意味が確定する表現を用いることが大切です。
遺留分侵害に注意
さらに、遺留分侵害にも注意しましょう。たとえば「全財産をAに相続させる」と記した場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があり、遺留分侵害額請求を受けることがあります。公平性を欠く内容はトラブルの原因となるため、配分を慎重に検討する必要があります。
検認手続きが必要になる場合がある
本人保管の自筆証書遺言、もしくは秘密証書遺言を発見した場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。また、検認はあくまで相続人に遺言の内容を知らせたり、遺言書の偽造や変造を防ぐための確認作業です。その遺言書そのものの有効性を保証するものではない点に注意しましょう。
相続前に失われた財産はどうなるのか
相続開始時点で失われた財産に関する遺言は無効となります。たとえば遺言書に記載した不動産が生前に売却されていた場合、その部分の遺言は撤回とみなされます。売却代金を特定の相続人に渡したい場合は、遺言書を改めて作成しておく必要があります。