相続登記は2024年4月から義務化され、不動産を相続した日から3年以内の申請が必須となりました。背景には所有者不明土地の増加という深刻な社会問題があり、未登記のまま放置すると、相続人に大きなリスクが生じます。本記事では、相続登記をしないままにするリスクやすぐに手続きできないときの対処法をわかりやすく解説します。
相続登記はいつ・なぜ義務化された?
相続登記とは、亡くなった方が所有していた不動産の名義を相続人へ移すための手続きであり、法務局へ「相続を原因とする所有権移転登記」を申請することをいいます。従来、この相続登記は相続人の判断に任されていましたが、名義変更が長期間放置されるケースが全国的に増加し、社会問題に発展したことから、2024年4月1日より義務化されました。義務化の背景
義務化の背景には、深刻化する所有者不明土地問題があります。相続登記が行われず、登記簿上の所有者が亡くなった方のまま放置されると、時間の経過とともに相続人の数が増え、所在地不明者や行方不明者が発生し、所有者の特定が非常に困難になります。義務化される以前は、長年放置された所有者不明土地が全国で推計約410万ヘクタールに達していました。これは、九州地方の面積を超える規模です。
公共事業や復旧・復興工事が進まない、雑草の繁茂や不法投棄、空き家化や治安悪化など、地域への悪影響も深刻化しています。国土交通省の調査では、所有者不明土地の発生原因の約66.7%が相続登記未了によるものとされ、制度の見直しが急務と判断されました。
新制度で何が変わった?
新しい制度のもとでは、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられています。2024年4月1日以降に不動産を相続した場合は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に手続きが必要です。もちろん、2024年4月1日より前に相続が発生していた場合も対象となり、施行日を起算点とし、そこから3年以内に手続きをしなければなりません。正当な理由なく申請を怠った場合には、10万円以下の過料が科されるなどのリスクがあります。
また、義務化前に発生していた相続にも遡って適用されるため、未登記物件がある場合は2027年4月1日までに登記を完了しなければなりません。ただし、相続人が非常に多く書類収集に時間を要する場合や、遺言の有効性について争いがある場合、重病や経済的困窮など特別な事情がある場合には、過料の対象外と判断される可能性があります。
相続登記をしないとどんなリスクがあるのか
相続登記を放置すると、所有者不明土地が増えるという社会的な問題だけではなく、相続人自身にも深刻な不利益が生じます。とくに、相続登記義務化により罰則が設けられた現在では、遅れがただの先送りでは済まない状況です。ここでは、義務化以外の実務的リスクについて整理します。
相続人が増えてより複雑化する
まず、相続登記を長期間放置すると、相続人の世代交代が進み、権利関係が急速に複雑化します。たとえば、父から子3人へ相続が発生したまま登記をしない場合、子の死亡にともない孫、そのまた子へとネズミ算式に相続人が増えていきます。数代にわたり登記がされなかった事例では、100名を超える相続人が存在し、名義変更に2年以上かかったケースもあります。このような状況では、全員の同意を得ることがほぼ不可能となり、専門家でも対応が難しくなります。
不動産の売却や活用などが自由にできない
登記簿上の所有者が亡くなった方のままでは、不動産の売却や担保提供ができません。売却しようとしても、ほかの相続人が行方不明になっていたり、協力を得られなかったりして取引が成立しないケースが多くみられます。ハウスメーカーや事業者も、所有者が不明確な土地には関与を避ける傾向が強いため、不動産の活用も難しくなります。
また、土地に建物を建てて融資を受けたいときは金融機関の審査を受けることになりますが、登記が完了していないと正確な所有者が不明という扱いになります。つまり、抵当物件として利用できなくなるのです。
不動産の差押や共有持分を売却される可能性がある
相続人の中に債務を抱える人がいる場合は要注意です。相続人の債権者が法定相続分で相続登記を申請し、債務を抱える相続人の持分を差し押さえる可能性があります。また、相続人本人が持分を第三者へ売却したり担保提供したりすることができるので、気付かないうちに見ず知らずの第三者が権利関係に入り込むことがあります。
遺言が無効化されるリスクがある
相続登記を怠ると、遺言書の記載内容が現状と一致しなくなり、遺言が一部または全部無効になるリスクもあります。こうした状況を避けるためにも、相続が発生した段階で速やかに登記を行い、権利関係を明確にしておくことが不可欠です。すぐに相続登記ができないときはどうしたらいい?
相続人の中に音信不通の人がいる場合や、遺産分割協議がまとまらない状況では、相続登記をしたくても手続きが進められないことがあります。しかし、相続登記は相続開始から3年以内の申請が義務化されており、期限を過ぎると過料の対象となる可能性があります。仮に正当な理由によって過料が免除されたとしても、相続登記義務を履行したことにはなりません。そのため、2024年4月から「相続人申告登記の申出」という新制度が開始されました。
この制度を利用すると、不動産の所有者に相続が開始したことと、自分が相続人であることを法務局へ申し出るだけで相続登記義務を履行したとみなされます。申出は書面だけではなくオンラインでも可能で、従来の相続登記で求められる押印や電子署名も不要です。
また、この申出は相続人が複数いる場合でもひとりひとりが単独で行うことができ、申出をした相続人のみが義務を履行した扱いになります。たとえば相続人が5人いる場合に、そのうち3人が申出を行えば、その3人については義務を果たしたことになりますが、残りの2人には履行したことになりません。
もっとも、この申出はあくまで「自分は相続人である」という申告に過ぎず、不動産の所有権を取得したわけではありません。したがって、申出をしただけでは不動産を売却したり、金融機関の担保に提供したりすることはできず、最終的には正式な相続登記を行う必要があります。
つまり相続の問題が解決次第、相続登記の手続きに取り組まないといけないということになるでしょう。ほかにも、相続土地国庫帰属制度を利用するという方法があります。
「相続土地国庫帰属法」は、2023年4月27日から施行されている制度です。この制度は、不要な相続土地を国に渡すことができるというものですが、利用するには土地評価にもとづいた10年間の管理費用を支払わなければなりません。
また、建物が存在する土地や土壌汚染がある土地、担保権が設定されている土地など、対象外となる土地もあるため、該当する土地が相続土地国庫帰属制度の条件を満たしているか確認する必要があります。